熟成酒の探求
最近、日本酒にも熟成酒が登場してきましたが、日本酒は本来一年酒。「米だけから造った純米酒は四季それぞれの味わいが楽しめます。四月頃にできる新酒は麹の香りが残り、少し苦味のあるお酒には山菜がよく合います。夏にかけて麹香がとれてくると初がつおなどにぴったりです。夏を越したひやおろしは熟成が進み、まろやかな味と香りは最高の状態となります。この熟成感がたまりません。」ひやおろしは食べ物を美味しくします。こうした熟成した酒に惹かれていきました。「外国の酒は古くなるほど価値が出ますが、日本にはその概念がありません。フランスでは赤ワインは三年以上、白ワインは一年半以上の熟成が必要とされています。」
お茶にしても新茶を尊ぶのは、日本が四季の豊かな国だったからです。こうした四季を大事にする旬の肴と合う熟成酒へと探究心は深まっていきました。一年酒の日本酒の個性を生かし、かつ量産できる熟成酒の開発へと向かっていきます。
発想の転換
「熟成とは、本来の酒の旨み・コクを損なうことなく味が丸みを帯び、刺激が少なくアルコールを感じさせないことです。日本酒の熟成酒としては、古酒しかありません。最も熟成に適していると言われる純米酒の生酒は、変質の心配があるため低温熟成されますから、五年、十年と長期間の時間が必要となります。」
そこで低温熟成では時間がかかるなら、高温熟成にしたらどうかという考えに至りました。高温での短期間熟成を可能にするには、アルコール度数を高めれば良い。
その手段が濃縮でした。ベースとなるのは無濾過で無添加、火入れをしない生の純米酒。熟成を考慮した純米酒の開発を信州銘醸とともに行われました。「凍結濃縮熟成装置」を開発設計。着想から十年あまり、理想は形となってきました。
38°の衝撃「醲献」
醲献とは濃い酒を献上するという意味です。しかしながら熟成されているので、口当たりはまろやか。身体にも優しい。濃縮することで酸度、アミノ酸度が倍加し、水やお湯で割っても味がくずれません。季節や料理、体調によって飲み方を自在に選べる融通性も特徴です。
偶然の産物
凍らせた水分(氷)と酒を分離したあとたまたま時間が経過し、氷が溶けて酒と混ざってしまいました。もとの原酒に戻ってしまったとがっかりしながら口に含んでみると口当たりがまろやかで旨味が感じられるように変化していました。分析にかけてみましたが、旨味成分が増し、血中に取り込まれるアルコール成分が穏やかに取り込まれ、ゆっくり分解していくことがわかりました。これこそが微酔いの持続ではないかと偶然の発見に驚きました。
新たにこの方法で造られたのが 「特撰和乃醇」、 「和乃醇」です。